劇場版 NARUTO -ナルト- 疾風伝 絆

武上純希はマトモに物語をやる気がなかったように思える。考えれば考えるほど奇妙な映画だ。しかし面白い。
物語の軸は『遊戯王GX』の3年目の昨年の劇場版のアレンジと言っても過言ではない。『心の闇』などのキーワードや神農というキャラは『遊戯王GX』を彷彿とさせるし、ヒロインが生否定に走るのをナルトが止めて生を直視させるという流れは昨年のまんまだ。
しかし、これまでの劇場版に比べて先鋭化している気がする。その印象の原因の一つには経過描写の大胆な省略がある。「いつの間に?」と思うことがしばしば。それにより、語りのスピードがものすごく速くなっている。ナルトが暴走するあたりのシークエンスも省略されての形だと言えるだろう。また、敵らしい敵が一人しかいないことも特徴的。劇場版3作目だと敵が複数出てきて、それらとナルト達が一対一で戦うという構図になるのだが、それに比べると戦闘シーンに時間を割かずに済んでいる。
となると、クライマックスでのキャラクター同士の衝突などが丁寧に描写されると思うのが人情だが、そんなこともないのが、今作のすごいところだ。ナルトとアマルも、アマルと神農も、ナルトとサスケも、どの関係も一通り流すだけで、さして掘り下げはしない。ナルトが神農にやたらとボコボコにされるのが、ある種の丁寧さといえばそうかもしれないけど。今作の「絆」というテーマが重すぎた感がある。キャラクターの持つ絆の形の多様さを羅列するだけで、精一杯だったようだ。
面白くないみたいな言い方だが、俺は面白かった。昨年の劇場版でも、終盤は力業でぶっちぎった感にすごくしびれたが、今年は最初から最後までぶっ飛ばしていた。その力感が大好きだ。粗雑ではあるが、整合性は失っていないし。絆については、見る側があとから妄想してニヤニヤできるように、語り過ぎない微妙な程度を探っていたようでもある。