つまり妄想

Darling(初回限定盤)

Darling(初回限定盤)

彼女の歌はただ俺を通り過ぎる。感想というような感想は、本当のところはないのかもしれない。彼女の歌は俺を希釈して、歌の満ちた空間へ上昇させるだけだ。そこで俺は常に何かが通り過ぎるのを感じ、終わる事のない綺麗な余韻に浸る。そこは「sky」だったり「楽園」だったりした。ただ、そこで俺は堀江由衣の語りを聴いていたんだ。今回、大きな差異があるとすれば「Darling」という人称的なものに向けられたアルバムであることだろうか。それは堀江由衣の言葉の幾ばくかを語りから祈りへとシフトチェンジしてしまったのかもしれない。だとすれば、このアルバムを聴いて俺が感じた何かは、歌が俺をただ通り過ぎるだけではなくなってしまったことに由来するのだろう。語りは通り過ぎるが、祈りは多少なりとも俺にぶつかる。それは「ずっと」での甲高いまでの声の張りに顕著だ。俺はあの切実さを無視できない。「ずっと」だけではない。祈り願う詞とともに彼女の振り絞ったような切ない声が、随所で俺を引きずり込んで固体化し身動きをとれなくする。「sky」は俺を悲哀に満ちていながら爽快で透明な青空・天空(あるいは虚空)に溶け込ませてくれる、その方向性で間違いなく白眉となるアルバムであったが、「Darling」は肉体を持った俺をただ跪かせて泣かせるという方向性において一つのメルクマールになるのではないだろうか。


その他雑感。
何故か「Days」がとてもいい歌な気がする不思議。シングルで出たときはどうでもいい歌な気がしていたのに。UTSURO様も言及されていたことであるが、黒薔薇保存会Aice5での活動で得たものを感じさせてくれて、それは非常に好ましいことのように思う。「Happy snow」はどうなるんだろう。天たまで流れたときにMDに録音したものをときどき聴いているが、音が悪すぎる。CD化してくれるといいなあ。