『フルメタル・パニック! The Second Raid』第6話・第11話の演出に関する放言。あわよくば賛辞。でも多分ただの誤解。

最近再放送で見た。山本寛さんが演出している第6話・第11話が良く出来ているように思えた。単独で見ても良いのは第6話。第11話は第6話を踏まえねば見れないようになっている気がするが、それがまた良い演出だ。11話は6話なしではありえないし、11話があってこそ6話も意味をなしてくる。この相補関係は見事。それが脚本というより演出に現われてくるあたりが凄い。手放しで絶賛してもいい。しないが。良く分からないから。

第6話「エッジ・オブ・ヘヴン」

同じく山本寛が担当した第2話の暴力描写は驚くべき美しさと過激さを含んでいた。この第6話もまた暴力をエグく描いているが、それ以上にこの話数で特筆すべきは、千鳥かなめ相良宗介の親密な関係の描き方だ。副題にもあるとおり、この第6話はかなめと宗介の楽園的時間が終わる回である。この回で二人の親密さのピークを描くという要請は恐らくあり、そして山本寛は見事にそれに応えている。どうやってこれほどまでに、かなめと宗介を親しげに見せることができるのか、正直言って俺には分からない。問題となるのは、かなめと宗介が歩道橋?の上で会話するシーンからだろう。考えてみる。

歩道橋上

可能性は幾通りもある気がするが、二人の距離感を「画面に二人がどのように映っているか」ということを通して見てみる。
このシーンは(頭に夕焼けに染まる町並みが映されるけど)美容院での出来事に怒り大股で歩くかなめとその後ろをごく平静に追う宗介、その二人の全身を俯瞰するカットから始まる(この説明は正確ではないかも。)。この時点での距離感はご覧の通りだ。二人は顔を向け合ってもいない。その状態で会話が続き、かなめは宗介を叱咤すべく後ろを振り返る。ここで二人は初めて対面し、同時に画面は二人のバストショットを側面からやや俯瞰気味捉えることになる。二人のサイズはアップし、よりホットなカットになったと言えるだろうし、また二人が対面していることも感情の流れとしては重要だ。そして次に宗介とかなめのそれぞれ単独のバストショットを切り返しで繋ぐカット群、これらのカットはアイレベルで、やや体の正面に対して若干斜めから映されている。この一連のリバースショットで、二人は会話のキャッチボール?をし、心が開かれていく。次に来るのは、夕焼けにシルエットを浮かび上がらせる二人を下から見上げる幻想的なカット。心を通い合わせた二人を同じ画面内に収め、またシルエット化することで余計なものを見えなくし、余情を生み出す。見えないからこそ、感じてしまうものがある。次、先ほどの宗介と同じ様な高さ角度からのカットなのだが、先ほどよりアップで、首から上しか映っていない。それに繋ぎ合わされるのは、更にアップのかなめである。シルエットのカットから一気にこの熱いカットへの繋ぎ、これが多分すごく効果的だ。かなめは笑う。そして、二人を宗介の左後方からロングで俯瞰する。この後は、またもバストショットの切り返しが繋がれていくのだが、先ほどとの差異は、今度は画面が体の正面からそれぞれを捉えることである。そしてこのシーンは終わる。
俺の説明が拙くて伝わらないだろうが、これらのカットはリズム良く繋がれ、またそれぞれのカットの意味、関係も明確である。カットを繋いでいくにつれ、二人の距離がどんどん縮んでいき、画面もホットになっていく。しかし、かなめが宗介をぎこちなく家に誘う段になって、画面を引きクールにすることで、かなめの緊張感を見る側にもたらす(違う気もする)。だが、その緊張感は、真正面からのバストショットの切り返しにより、宗介のかなめへの信頼感へと転化されていく。この時点で二人の親密さは相当に高まっているようだ。

かなめの家

飽きてきたので、ポイントだけ抑えておくことに。
このシーンで強調されるのは、まず、二人の距離の近さ。散髪の場となる洗面所は狭く薄暗い。この閉塞感が否応なく二人の物理的距離を縮め、それは視覚的には心理的距離の近さと同じだ。また、かなめは宗介に対して、躊躇いなく顔を近づけて、優しげに囁くように声をかける。これだけでも二人の間に親密さを感じないわけにはいかない。さらに、かなめの宗介に対する気遣いも見え隠れするのである。それは宗介の髪を弄るかなめの指先に現われる。かなめの指先やハサミがクロースショットで映し出されるが、その動きの細やかさが、我々にかなめの優しさを感じさせる。それらのショットにおいて画面が微妙に動揺するのも効果的で、多分、我々自信が近くで二人を見ているような気にさせられる。
だんだんと描写の中心が宗介に寄っていくのは、この話の最後にかなめとの別離を知って動揺するのはとりあえず宗介だからだろうか。かなめの身を案じる様をじっくりと見せておいて、落差をより効果的に演出するために。
面倒になってきたので食事シーンは省く。だが、この食事という行為が、また決定的な親密さを見せつけるものであることは留意しておかねばなるまい。ドアの前での別れのシーンも、またなんとも。真正面からのバストショットが利いている。この見つめ合ってる感がたまらないのだろうな。そして沈黙の間の取り方も。宗介が帰った後の、かなめの俯瞰ショットと孤独感は容易に結びつく。

まとめる

明らかに不十分な説明だが、しかし、第6話でいかに二人の距離が近いものとされているかは、まあ見ればすぐにわかるだろう。基も子もないな。
この話数で見せられたものが、11話でものすごく生きてくる。それは単に二人の親しさというレベルに留まらない。もっと細かいレベルまでそれは及ぶ。例えば、帰宅後、宗介が窓ガラスに映る自分を見て、前髪に触れる辺り。そして、鏡と化した窓ガラスの向こうにかなめの部屋が見えること。これらもだ。

第11話「彼の問題」

いやー実はそんなにつながっているという強い確信はなかったりする。
俺が話題にしたいのは、宗介がかなめ似の売春婦の部屋に行ってからのシーンだが、Aパートの最後のカット、ひび割れた鏡に二人が並んで歩く姿が映るのは、多分、暗示的なもので無視できない。とりあえず無視するが。さて、女の部屋だ。このシーンで一つ象徴的なものを挙げるとするならば、まず「鏡」だろう。この鏡が6話と11話を繋ぐと俺は考えている。我々は第6話で印象的に鏡を見せられている。まず宗介が髪を切る洗面台の鏡は何度も映し出されるし、また宗介の部屋の窓ガラスが鏡と化しているのも我々は目撃した。このシーンでは宗介は小さな鏡に映る自分を見つめるたびに、かなめのことを思い出す。これは宗介が鏡を通してあの親密な夜を思い出していることを示しているし、また鏡を通してかなめを思い出すということは、端的に鏡の向こうにかなめを見ることでもあり、それは6話で窓ガラスの向こうにかなめの部屋が見えることの描写へとつながっている。書いてみたら、やっぱり大したことない気がしてきた。鏡ということでいえば、このかなめそっくりな女は、かなめの「鏡像」であるとも言える。かなめとは言動も(鏡に映したように)反対に思える部分もある。また、先に「鏡を通してかなめのことを思い出す」と書いたが、その鏡の役目を鏡像であるこの女も明らかに負っている。明らか過ぎて、書いてもしょうがない。そして、この女が何気なく前髪に触れる、その仕草もまたあの夜の髪にまつわる出来事を想起させる。この演出にはしびれる。が、俺の考えすぎだろうか。しかし見た瞬間に俺は前髪に触れる宗介を想起してしまった。
疲れてきたので、ぐだぐだと書いてしまったが、しかしこのかなめそっくりな女を登場させるにあたり、かなめとの思い出がなければ、この女に会ってもかなめを強く想起することはなく、それでは意味がないわけで、その「思い出」を最も直接的に担っているのが第6話でのかなめの家での出来事なのである。そして、かなめに似ている女からだけかなめを想起させるのではなく、鏡という小道具を使ったり、女に髪を弄らせたりしている。言葉や分かりやすい映像だけでなく、「何をどういうふうに映すか」、そこから意味をひねり出している。これを演出と言わずして何と言うのか。
放り投げてやる。